犬マイクロチップ普及国でわかった問題点

前回のマイクロチップの記事を読んだ方からマイクロチップの移動についてご指摘をいただき、また、てりやきさん(@happyguppyaki )から、普及している国で臨床獣医師をやっていて感じていることをコメントいただいたので、自分でも少し調べてみたのでまとめました。

前回の記事はこちら

動物愛護法の改定に伴い、マイクロチップ挿入の義務化がささやかれています。マイクロチップの長所については調べれば出てきますが、あえて法律で義務化する意味、その利点について考えたことはあるでしょうか。そこで、元公務員獣医師の僕が、様々な意見をもとに考察してみました。

豪州では、犬の登録を毎年更新しなければならず、毎年お金がかかる。しかし、マイクロチップを挿入していることにより、その更新手数料が割り引きになるらしく、これにより、かなりマイクロチップが普及しているようです。

マイクロチップ普及国の獣医師が感じる課題

登録機関の統合

豪州でも、登録機関は複数存在するようで少し面倒とのこと。しかし、どこの登録機関に問い合わせればいいかがわかるプラットホームがあるようで、面倒といってもひと手間で済むようです。これは日本も見習いたい!!

MRI検査への影響

全然大丈夫っすね。現場からは以上です。

だそうですw

マイクロチップ自体の故障

形あるものなので、やはり故障は避けられないようです。故障に気づかず安心していたところ、逸走してしまい、マイクロチップ未挿入として判断されるケースも。

これは避けたいところです。でも普通に考えたら、メンテナンスなしで一生壊れない機械なんて存在しないわけですから「入れたら絶対安心」は考えものかもしれません。

他の機器でいうメンテナンスに代わって、定期的に読み込んで確認することが必要だと、てりやきさんもおっしゃっていました。

ダブルマイクロチップ

逆に、入っていないと思って更に入れられてしまうケースもあるとか。動物を譲り受けた新しい飼い主がマイクロチップ挿入を依頼してくると、ダブルマイクロチップが起こり得ます。てりやきさんいわく、このようなヒヤリハットは毎週レベルで起こるんだとか!!これで困るのはそのデータを管理する行政等かもしれませんが、動物的にも気分のいいものではありませんね。ダブルマイクロチップを避けるには、挿入前の獣医師による確認を慎重に行う以外ないでしょう。

普及国ならではの問題かもしれません。

マイクロチップによる腫瘍発生

Crucial information you need to know -- before you decide to microchip your pet.

こちらの記事では腫瘍の発生率の高さを理由に、マイクロチップは危険だと言ってます。

Research shows that between 1996 and 2006, up to 10 percent of laboratory animals had some type of reaction to being microchipped, ranging from a localized inflammatory response to tumor formation at the site of the injection.

研究によると、1996年から2006年の間に、実験動物の10%以下で、注射部位における腫瘍形成に対する局所的な炎症反応から、マイクロチップ化されるある種の反応を有していたことが示されている。

これだけを見ると確かに、そんな高い確率で腫瘍が発生する異物を愛犬愛猫に入れたくないと思うのも当然です。

英国小動物獣医学会のデータ(~2009)

英国の小動物獣医学会がとり続けているデータでは、何か問題が出るのは1万分の1以下の確率とのことです。注意すべきは10年前のデータという点です。

マイクロチップの移動は多い

Since the database was started in 1996, over 4 million animals have been microchipped and only 391 adverse reactions have been reported.

(英国小動物獣医学会の)データベースは1996年に開始されて以来、マイクロチップを入れた400万以上の動物のうち、391件の有害反応しか報告されていない。

しかも、その391件の多くが、マイクロチップの移動だそう。

Of these reactions, migration of the microchip from its original implantation site is the most common problem reported. Other problems, such as failure of the microchip, hair loss, infection, swelling, and tumor formation, were reported in much lower numbers.

これらのうち、もっとも一般的な問題は、最初の移植部位からのマイクロチップの移動である。 マイクロチップの故障、脱毛、感染、腫れ、腫瘍形成などの他の問題は、はるかに低い数値である。

リンクにその具体的なトラブル内容別の件数を記載してます。

表が少し見づらいかもしれないです(リンク先にあるのでそちらを参照してください)

健康被害は?

上記の表によるといわゆる病的なトラブルは感染(20件)、腫れ(23件)、腫瘍(2件)です。

あれだけ太い針を刺すので、400万分の20は想定内かな。ただ、この表だけで感染の重度はわかりません。20件とも、数日で完治する感染だったかもしれないし、中には命にかかわる感染を起こしたものもあったかもしれませんけどね。

腫瘍の発生は?

命に関わる可能性のある悪性腫瘍の発生についても記載がありました。

実験動物のマウスやラットでの腫瘍発生については、以下のように記載されています。

The risk of foreign body-induced tumors is affected by duration, species (and strain), and size.

期間、種(株:実験動物)、サイズによる。

実験動物のマウスやラットの特定の株は腫瘍発生率が高いことが知られているため、その結果を犬猫にあてはめるのは不適切だとしめくくられています。それに、マウスやラットからすればマイクロチップはかなり大きいものですしね。

やはり大きいほど腫瘍発生リスクはあがりますので、マイクロチップは小さい方がいい。

しかし、移動しにくさを考えるとある程度大きさがあったほうがいいのかもしれない。

難しいところですね。

あと、こんな記載もありました。

A number of studies have reported microchip-associated tumor formation in laboratory animals. 【中略) the microchips implanted in these animals were not the type same microchips that are implanted into pets.

多数の研究が、実験動物におけるマイクロチップ関連腫瘍形成を報告している。 (中略)これらの動物に埋め込まれたマイクロチップは、ペットに埋め込まれた同じマイクロチップではなかった。

こうなってしまうと、すでに比較の価値もありません。この記事の冒頭で紹介した腫瘍発生率が高いというのは、こういう点に考慮していない可能性があります。

鑑札や注射済票に代わることができるか

Q:  Does a microchip replace identification tags and rabies tags?
A:  Absolutely not. Your pet’s rabies tag should always be on its collar, so people can quickly see that your pet has been vaccinated for this deadly disease. Rabies tag numbers also allow tracing of animals and identification of a lost animal’s owner, but it can be hard to have a rabies number traced after veterinary clinics or county offices are closed for the day. The microchip databases are online or telephone-accessed databases, and are available 24/7/365.

絶対違う。
あなたのペットの狂犬病の札は常に襟の上にあるべきで、他人でもあなたのペットが狂犬病予防接種をされていることをすぐに知ることができます。 狂犬病注射済票番号はまた、動物の追跡と逸走動物の所有者の識別を可能にするが、獣医または郡庁がその日に閉鎖された後に追跡される狂犬病の数を有することは困難であり得る。 マイクロチップデータベースは、オンラインまたは電話でアクセスするデータベースで、24時間365日ご利用いただけます。

とはあるものの、僕は妙に納得できません。確かに、他人から見ても狂犬病予防接種がしてあるかわかるという点は納得できます。自治体が休みの土日祝日は読み取れないと困るのもまた納得。

では、土日祝日でもあいている動物病院がマイクロチップリーダーを持てばいいのでは?公益社団法人は、AIPO管理してるだけではなく、マイクロチップリーダーの普及にも貢献してほしいものです。

誰でもアクセスできることは個人情報等の関係で難しいと思いますが、誰でもアクセスできる範囲を絞ればいいと思います。所有者が誰かではなく、どこの市町村なのか、その犬は狂犬病予防接種をしているかくらいでもいいのではないでしょうか。

マイクロチップ有害事象報告制度(2015)

こちらは比較的新しい報告をまとめた記事になります。

2014年4月から2015年12月までに発生したことをまとめています。

2015年2月にマイクロチップの挿入が義務化(?)されたことにより、それ以降の報告件数が飛躍していることを注意してください。

やはり多い、移動

健康トラブルではないので、具体的な記載は避けますが、軽く触れておくと、特に犬の肩に挿入されたものの移動が多いとの記載がありました。馬やロバ等で推奨されている靭帯に挿入した場合、移動はほとんどなかったようです。

挿入位置はこれからデータを蓄積して検討すべき課題かもしれません。もしかしたらその前に、動きにくいMCが開発されるかも?

マイクロチップの故障(読み取り失敗)

無視できないのが故障です。上記の2009年のデータでも少なくなかったですが、2015年データでも移動件数にせまる数が報告されています。

Of the 630 failure reports received, 482 (77%) occurred in dogs, 145 (23%) in cats, in rabbits and 1 in a horse.
Details of failure reports are summarised, as follows:
• In 5 cases the scanner was not working, and the presence of the chip was not confirmed by another means
• In 33 cases, the scanner was working, but a full body scan was not done
• In 538 cases, the scanner was working, a full body scan was done, but the presence of a chip was not confirmed by another means
• In 51 cases, the scanner was working, a full body scan was done, and the presence of the chip was confirmed by palpation or imaging.

受け取った630の失敗報告のうち、犬で482(77%)、猫で145(23%)、ウサギは1頭、馬は1頭。
詳細は次のようにまとめられています。
•5つのケースでは、スキャナ(僕の言うところのリーダー)は作動しておらず、チップの存在は別の手段で確認されたました。
•33例の場合、スキャナは作動していましたが、全身スキャンは行われませんでした。
•538件の場合、スキャナは作動し、全身スキャンは行われたが、
別の手段ではチップの存在を確認できなかった
•51例の場合、スキャナは作動し、全身スキャンが行われ、
触診またはイメージングによってチップの存在が確認された

これは、マイクロチップとリーダーの開発技術と期読み取る側の技術の発達を期待するしかなさそうです。「入れていたのに、読み取られずに使えなかった」では意味がありませんからね。特に、災害ではぐれてしまった等、ここぞという時に発揮できなかったら悔やんでも悔やみきれません。

そういうことも想定して、豪州獣医師てりやきさん @happyguppyaki は「月1回の検診時に病院で読み取ってみる」ことも重要だとおっしゃっていました。納得です。

更に「故障」と報告された中には、「それはマイクロチップの故障ではなくて、読み取りミスだろ」と突っ込みたい報告が結構あったことが、文脈から読み取れました。

2015年に始まったこの報告集計、初年度に報告基準が統一されきれていないことはある程度仕方がないことでしょう。経年に伴い、報告基準が統一&浸透してくると本来の故障件数が見えてくるようになるでしょう。

健康被害

一番心配すべき健康被害はReactionとしてカウントされ、61件の報告があがっています。そのうち39件が犬、21件が猫、1件がウサギです。

犬の39件のうち35件、猫の21件のうち11件がいわゆる腫れや局所的な炎症です。

いずれにせよ、ワクチンと同時に、更にワクチン接種場所の近くにマイクロチップの埋め込みをしているケースが多く、マイクロチップによる反応なのか、ワクチンによるものか判断できないケースも多いようです。

このレポート、モヤモヤしていたものが最後のしめくくりでやっとわかることですが、

As the VMD does not currently receive sales information, and cannot estimate the number of animals that have been microchipped, calculating an accurate risk of such adverse events is not possible at this time. However, considering that there are an estimated 8.5 million dogs and 7.5 million cats in the UK the likelihood of an animal experiencing an adverse event is very low.

VMDは現在販売情報を受けていないため、マイクロチップ化された動物の数、及び動物の正確なリスクを計算するのは、現時点では不可能である。しかし、
英国は犬850万匹と猫750万が匹と推定されるでおり、その中で有害事象を経験することは非常に低い。

マイクロチップ挿入の母数がわからないということです。確かにかなりの数の犬猫に挿入しており、有害事例発生は低確率と予想されますが、数字をしっかり出して欲しいですね。こんなに頑張って和訳したんだからさ…(´・ω・`)トホホ…

最後に一言

「ありがとうGoogle翻訳」

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りどる (@2NnhCjioA2ogalv)さんの最新ツイート。元保健所獣医師。 動物愛護行政で、条例策定、短期海外研修、地域の災害対策に携わりました。その後自然環境部局も経験。 動物の愛護管理、福祉、自然環境問題について発信していきたい。 動物問題を多角的視点で見るブログもよろしくお願いします↓

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コメント

  1. 加賀 翠 より:

    貴重な情報ありがとうございます。
    私は未だに挿入に踏み切れていません。
    我が子のホームドクターも、どちらかというと賛成ではありません。
    御記事、シェアさせて頂きます。

    • りどる より:

      加賀さん
      シェア、ありがとうございます。
      私もまだまだ勉強中です。
      ちなみに、かかりつけ獣医さんはなぜ反対しているか理由を聞いたことありますか?

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